「恋愛と結婚は別」という価値観の背景

中国では、家族や社会のプレッシャーが依然として強く、特に結婚市場における”条件”が重視される。経済格差、都市戸籍と農村戸籍の違い、家族構成と親の資産……こうした要素が、結婚を単なる個人の自由ではなく、家族全体の未来を左右する一大プロジェクトへと押し上げている。

具体的なエピソード紹介①：上海のキャリアウーマンの場合

上海で出会ったリナ（仮名）は、外資系企業で働く30歳のキャリアウーマン。彼女には5年付き合った恋人がいたが、結婚は考えられなかった。理由は簡単で、彼の年収と家族の経済状況が、自分の実家と釣り合わなかったからだ。彼女は「恋愛は自由だけど、結婚は家族が関わる。好きだけじゃダメ」と語った。

具体的なエピソード紹介②：農村部出身の男性の葛藤

一方、湖南省の農村から出てきたジン（仮名）は、都市部で必死に働き、やっと手に入れた中流生活を守ろうとする。しかし彼が恋した都市女性は、彼の出自を理由に両親から反対された。彼は「僕たちは互いに好きだった。でも、両親が『農村の嫁を取るわけにはいかない』と言った」と肩を落とす。

中国版「婚活」市場の実態

中国では、親が主導して子供の結婚相手を探す”相親”が根強く残っている。週末の人民公園では、親たちが子供のプロフィールを掲げて見合いを勧める光景が見られる。アプリによるマッチングサービスも盛んで、条件フィルターは日本以上に細かい。年収、学歴、戸籍、家族構成、持ち家の有無……恋愛感情より先に”条件”が第一に来る。

愛よりも「条件」を重視する心理

背景には、社会保障制度が不十分であること、経済的不安定さがある。結婚相手に財力や社会的地位を求めるのは、生き抜くための現実的な戦略だ。加えて、一人っ子政策の影響で、親が子供にかける期待とプレッシャーは一層強まっている。

日本との比較 ─ 似ているようで違う恋愛観

日本でも”恋愛と結婚は別”という感覚は広まっているが、中国ほど明確な”家族プロジェクト”にはなっていない。牛窪恵は、日本の若者について”さとり世代”として特徴付け、「無理をせず現実と妥協する」傾向を指摘する。だが、中国の若者はより露骨に、”打算”を隠さない傾向にある。

牛窪恵流「現代若者心理学」から読み解く

牛窪は、現代若者の恋愛観について「自己防衛本能が強い」と述べる。中国の若者も、愛に期待しすぎず、自分と家族を守るために合理的な選択をしている。それは、冷たいというより、むしろ自己と他者を深く意識した高度な”生存戦略”とも言える。

今後の恋愛・結婚の未来予測

今後、中国では”条件”だけでなく”心の安らぎ”を求める第二波が来るかもしれない。すでに若干名だが、都市部では「好きな人と結婚したい」と公言する若者も増えてきている。経済成長とともに、恋愛・結婚観も進化していくだろう。