本論

1. 矛盾する欲望の心理的根拠

1.1. 安定を求める欲望

安定を求める欲望は、人間が本能的に持つ安全確保のための欲求である。

• 進化的視点: 人間は長い歴史の中で安全な環境に身を置くことで生存確率を高めてきた。未知の環境への適応にはリスクが伴い、安全な環境での生活を好むのは生存本能の一部である。
• 心理的視点: 精神的な安定を求めることで、ストレスや不安を軽減する。特にトラウマや困難な経験を持つ人は、安全な環境に固執しやすい。
• 社会的視点: 安定した仕事、固定の人間関係、一定の生活パターンを持つことで、社会的な安心感が得られる。

1.2. 変化を求める欲望

変化を求める欲望は、人間の成長や進化を促す要因である。

• 進化的視点: 生物学的には、新しい環境への適応能力が高い個体が生き残る。したがって、未知の環境や新しい挑戦を求めることは生存競争の一環とも言える。
• 心理的視点: 変化は自己成長につながる。新しいスキルの習得や自己実現のために、人は変化を求める。
• 社会的視点: 社会は常に変化している。技術の進歩、文化の発展、価値観の変化に適応することで、個人も社会の中で成長していく。

2. 具体的な事例

2.1. 仕事における安定と挑戦

• 事例1: 企業勤めの安定志向と起業への憧れ ある会社員は、安定した職場に長年勤めながらも、常に「もっと新しいことに挑戦したい」と考えている。しかし、転職することへの不安から、現状に留まり続ける。
• 事例2: ベンチャー起業家のジレンマ 一方で、冒険心の強い起業家は、リスクを取ることで成功を掴むが、時には「安定した生活が欲しい」と感じることもある。

2.2. 恋愛における安定と刺激

• 事例1: 安定した関係がマンネリ化する現象 安定した恋愛関係を求めるが、長く付き合ううちに刺激が足りなくなる。このため、刺激を求めて新しい恋愛を求めることがある。
• 事例2: 刺激を求めるが最終的に安定を求める心理 新しい刺激を求めて恋愛を繰り返すが、最終的に安心感や信頼関係がある関係を恋しく思う。

3. 自己欺瞞と心理的葛藤

3.1. 加藤諦三の「自己欺瞞」理論

加藤諦三は、「人間は自分の本当の欲望を認めることを恐れる」と述べている。例えば、安定を求めると同時に変化を望むことに気づくと、心理的葛藤が生じる。この葛藤から逃れるために、人は自己欺瞞に陥る。

3.2. 認知的不協和の具体例

• 転職を決断した後、「やっぱり前の職場の方が良かった」と思うが、後悔を避けるために「今の方が良い」と自分に言い聞かせる。

4. 矛盾を乗り越える方法

4.1. 加藤諦三が提唱する「自己受容」

• 自分の矛盾する欲望を受け入れることが、精神的な安定につながる。
• 無理にどちらかを選ぶのではなく、バランスを取ることが重要。