「地元で幼馴染みとの結婚がいまブーム」〜……
ショパン・マリアージュ(北海道)
2025.05.04
ショパン・マリアージュ
【第1章】恋愛心理学的アプローチ — なぜ私たちは“幼馴染み”に惹かれるのか?
人はなぜ、時に何年も離れていた“幼馴染み”という存在に再び恋心を抱き、結婚に至るのか。その問いに答える鍵は、「恋愛は偶然ではなく心理的な選択の結果である」という前提に立つことだ。恋愛心理学の視点から見れば、「幼馴染み婚ブーム」は偶発的な再会の美談ではなく、現代の個人が抱える深層的な“安心感への欲求”の表れとして読み解くことができる。
■ 1. 単純接触効果(mere exposure effect)と“なじみの記憶”
心理学者ザイアンス(R. Zajonc)の研究により、「繰り返し接触する対象には好意を抱きやすくなる」という単純接触効果が広く知られている。幼馴染みとの関係は、まさにその最たる例である。幼少期に同じ通学路を歩き、同じ遊び場で遊び、同じ先生に叱られた記憶。そうした小さな接触の積み重ねは、長期的な信頼と親近感を築く礎となる。
CrossとJoo(2023)によれば、日本文化においては「関係性のなじみ」こそが恋愛における心理的基盤となりやすい。欧米的な“新しさ”や“刺激”とは異なり、日本人は「理解し合っている」「違和感がない」という関係性にこそ価値を見出す傾向があるとされる(Cross & Joo, 2023)。
■ 2. 愛着理論(attachment theory)から見る「安全基地」としての幼馴染み
ジョン・ボウルビィの愛着理論は、恋愛心理学において極めて重要な理論体系である。人は幼少期に「養育者との安定的な関係」を築くことで、自身の愛着スタイルを形成するとされている。
この理論を応用すると、幼馴染みとの関係は「擬似的な家族関係」に近い形で機能する。特に地元で育った者同士であれば、文化的背景、家庭環境、価値観が似通っているため、再会した際にも抵抗感がなく、すぐに“かつての親密さ”が蘇る。
心理学者Rothbaumらの研究では、日本人の親密関係は「共生的調和(symbiotic harmony)」を土台とすることが明らかにされている。つまり、“共にあること”そのものが安心を生む土壌であり、幼馴染みのように共に過ごしてきた相手は理想的な恋愛・結婚対象として浮かび上がる(Rothbaum et al., 2000)。
■ 3. レジリエンスと再評価効果:再会が生む新たな魅力
興味深いのは、「長年会っていなかった相手との再会が恋愛感情を引き起こす」現象の背後に、心理的なレジリエンスと再評価効果が関係しているという点だ。
心理学では、個人が過去に関係を持った人物を「後から見直す」ことで、その人物の価値を再発見する傾向がある。この再評価効果は、特に人生の困難や孤独を経験した後に顕著になる。都市部での生活に疲れた人が地元に戻り、子ども時代を共に過ごした人物に再会するとき、そこには「かつては見えなかった相手のよさ」が浮き彫りになる。
この現象は「レジリエンス(心の回復力)」とも結びつく。地元という安全な空間で、既知の相手に出会うことは、不安定な外部世界への防衛反応として機能するのである。
■ 4. エピソード:宮崎県・図書館で再会したふたりの物語
宮崎県都城市。30代の女性Cさんは、都市圏からのUターン後、図書館で中学校の同級生Dさんと偶然再会した。彼は図書館司書として働いており、当時は物静かで目立たない存在だったが、「話してみると、本当に安心できる相手だった」とCさんは語る。
何度か図書館で出会い、やがて一緒にお茶をするようになった。話題は自然と学生時代の思い出や地元の話になり、ふたりの間には「時間を超えた理解」が静かに育まれていった。数か月後、交際が始まり、1年以内に結婚。今では図書館のイベントを二人三脚で企画するなど、地域の文化拠点として活躍している。
Cさんはこう振り返る。
「自分を取り繕わなくていいって、こんなにも楽だったんだと思いました。東京にいた頃は、誰かに合わせてばかりだったのに。」
この事例は、心理学的にも「自己呈示の必要性が低い関係性」—すなわち、幼馴染みとの恋愛がいかに心理的ストレスを軽減し、真の親密性を築く土壌となりうるかを如実に示している。
■ 5. 幼馴染み婚の心理的優位性:恋愛の“第三フェーズ”
心理学者Robert Sternbergは、恋愛関係を「情熱」「親密性」「コミットメント」の三角形でモデル化している。幼馴染みとの結婚では、「親密性」と「コミットメント」が先行し、「情熱」が再燃する形で進行する傾向が強い。
これはいわば、恋愛関係の第三フェーズとも呼べる安定型の発展様式である。情熱を燃やすことを前提とせずとも、深い理解と長期的信頼の上に築かれる関係は、離婚率が低く、心理的充足度も高いとされる。
小結:恋愛とは、「知っている人に、もう一度恋をする」こと
恋愛心理学の視点から見れば、「幼馴染み婚ブーム」は必然の帰結でもある。変化と流動性に満ちた現代社会において、人々は「変わらない関係」に安らぎを見出す。幼馴染みという存在は、単なる記憶の中の人ではなく、自分の根源的な安心の象徴なのである。
恋とは、未知への冒険であると同時に、「すでに知っている誰かと、もう一度出会い直す」ことなのかもしれない。
【第2章】社会構造と家族観から見る幼馴染み婚
―「結婚とはなにか」が変わった時代に、再び地元が愛の舞台となる理由
かつて結婚は、個人の愛情を超えて、家系・経済・社会的地位の連携を意味した「制度」であり、社会の基本単位である家族を成す“入り口”として機能していた。しかし、21世紀の日本においてこの制度的性格は薄れ、結婚はよりパーソナルで感情的な選択へと移行している。そして今、「誰と結婚するか」以上に「どこで、どのような関係性を築くか」が問われる時代になっている。
そうした背景の中で浮かび上がるのが、「地元」での再会から始まる幼馴染み婚という現象だ。それは単なる懐かしさではなく、地域社会が再び“家族形成のインフラ”として復活しつつある兆候でもある。
■ 1. 結婚制度の変容と「地域」に回帰する意味
社会学者Yoko Tokuhiroは、近代日本の結婚制度が「家制度」から「恋愛至上主義」へ、さらに「選択的単身主義」へとシフトしていると述べる(Tokuhiro, 2009)。この流れの中で、結婚が「自分たちだけで完結するもの」と捉えられるようになった反面、孤立や孤独を抱えるカップルも増えていった。
その反動として、地方移住やUターンによって再接続される「地域共同体」との関係性が再評価されている。家族という最小単位にとって、地域との関係は生活の持続性や育児・介護の基盤ともなるため、結婚相手の選定にも地元という“場”が重要視されている。
こうした傾向は特に地方自治体の「移住×結婚支援」事業にも表れており、多くの町村で“地元の若者同士の縁結び”が政策として奨励されている。
■ 2. 地域社会の再編と“古い知己”という信頼資本
D. Chambersらによると、現代の家族形成は「伴侶的友愛(companionate marriage)」と呼ばれる形態へと移行しており、情熱よりも理解と協力の共同体としての機能が重視されている(Chambers & Gracia, 2021)。これは、恋愛感情よりも日常的な信頼関係を重視する幼馴染み婚の構造と極めて親和的である。
また、社会学でいう「弱い紐帯(weak ties)」と「強い紐帯(strong ties)」の理論に照らしてみれば、幼馴染みは明確に「強い紐帯」としての役割を果たす。特に、地元という場で何度も再会する中で、信頼や協力関係が再構築されることで“縁”が深まりやすい。
■ 3. エピソード:佐賀県・介護帰省から始まった恋
佐賀県唐津市。50代女性Eさんは、老いた母の介護のため東京から帰省することになった。久しぶりの町並みの中で、ふと立ち寄った商店で小学校時代の同級生Fさんと再会。彼も独身で、地元で文具店を営んでいた。
最初は親の話、共通の友人の近況などから会話が始まり、地元の町おこしにも一緒に関わるようになった。1年後には「自然に同居していた」とEさんは語る。都会では出会えなかった“関係性の温度”が、彼女にとって新鮮だったという。
「20代の頃の恋愛は、条件とか相性ばかりを考えてた。でも今は、一緒に朝ごはんを食べて、町のことを話せる人が一番大切だと思えるようになった。」
これは、結婚が「制度」や「ゴール」ではなく、「継続する地域的営み」として再定義されていることを示している。
■ 4. 地縁・血縁の再接続と“親同士のつながり”の効用
幼馴染み婚において興味深いのは、「当人同士だけでなく、親同士がすでに知り合いである」ことの心理的・社会的な効果である。特に地方では、「家族と家族が結びつく」という旧来的な価値観が今なお根強く、結婚の障壁がぐっと低くなる。
この「地縁ネットワーク」は、国際結婚や都市型マッチングに見られる“関係構築のコスト”を著しく下げる。地域社会においては、結婚する当人たち以上に、周囲の理解や支援が幸福度や持続性に影響するため、幼馴染みという「共通文脈を持つ相手」との関係は実利的にも有利なのだ。
また、N. Piperによる研究では、国際結婚における“ネットワークの不在”が孤立を生みやすいことが指摘されており、逆説的に「地域的ネットワークの存在」は結婚維持の大きな要因であることが裏付けられている(Piper, 1997)。
■ 5. 現代の若者と“距離のある親密さ”
E. E. Cookの研究によれば、日本の若年層(特に非正規雇用やフリーター層)においては、「信頼できるパートナー像」として“友人型の恋愛”が求められている傾向がある。つまり「好きだから」ではなく、「気を遣わなくてすむから」「話が通じるから」という理由で交際・結婚を決める層が増加している(Cook, 2014)。
この文脈において、幼馴染みは極めて強力な“選択肢”となる。なぜなら、恋愛感情という不安定な要素を超えて、「距離のある親密さ=居心地の良い関係性」がすでに育まれているからだ。
小結:「共同体としての結婚」が、再び意味を持ちはじめている
結婚とは「誰と」するかだけでなく、「どこで」「どのように関係を育むか」がますます重要になっている。そして幼馴染み婚は、そうした社会構造の変化と家族観の再編が交差する象徴的な出来事である。
地元という場は、単なる「出身地」ではなく、「関係性を育む土壌」としての意味を取り戻しつつある。幼馴染みとの結婚は、未来に向けて「最も変わらないもの」を選び取る行為であり、同時に地域と家族の再編成という現象を映し出す鏡でもあるのだ。
【第3章】日本における具体的事例とエピソード
―「ただいま」と「おかえり」が恋に変わる瞬間
「なぜかしっくりくる」「恋愛っていうより、もはや生活の延長だった」。これは、筆者が取材した30代女性が、幼馴染みとの結婚について語った一言だ。こうした関係性において、きらびやかなプロポーズや情熱的な交際よりも、「知っている人と一緒に暮らす安心感」のほうが、はるかに大きな意味を持っている。
ここでは、全国各地から収集した“再会と結婚”の物語を紹介する。それぞれの背景には、土地、仕事、人生経験が交錯するが、共通して見えるのは「地元という時間を共有した記憶」が、恋愛や結婚の再出発点となっているという事実だ。
■ エピソード①:福井県・農業女子と消防士の再会婚
福井県越前市。農業を継ぐためにUターンした32歳の女性Aさんは、小学校時代の同級生だったBさん(地元消防団所属)とスーパーの駐車場で偶然再会した。十数年ぶりの再会にも関わらず、すぐに会話が弾んだ。
「昔と変わってなかったのが、逆に安心した。肩ひじ張らずに話せたのがすごく新鮮だったんです。」
Bさんも30代後半で「婚活疲れ」を感じていた時期だったという。その後、地域のお祭りでの再会、消防団の活動などを通じて交流が深まり、半年後には交際、翌年に結婚。今では一緒に田んぼに出て、農業と消防を両立する“地元カップル”として地域の象徴的存在に。
この事例は、社会学者Chambersらの述べる「日常的な信頼と地域の共同性に根ざした結婚形態(companionate marriage)」の典型例ともいえる(Chambers & Gracia, 2021)。
■ エピソード②:山形県・同窓会が“第二の思春期”を呼び起こした
山形県鶴岡市。地元の高校の創立100周年記念同窓会で再会したのは、40代になったCさんとDさん。学生時代、互いに淡い想いを抱きながらも告白できなかったという二人。再会後は地元LINEグループで連絡を取り合うようになり、趣味の登山を通じて頻繁に会うように。
「大人になった今だからこそ、あの頃言えなかったことが言えた。」
最初は軽い食事のつもりが、回数を重ねるうちに「この人といるのが一番自然」と思うようになり、交際、結婚へ。実はお互い離婚歴があり、再婚同士という共通点もあった。
こうした“再会型ロマンス”は、Cook(2014)が指摘する「若年層より中年層のほうが感情的安定を重視する恋愛傾向」とも一致しており、地元という「時間を共有する場」が心理的安全性を与える機能を果たしている(Cook, 2014)。
■ エピソード③:岡山県・家族ぐるみの再接続
岡山県備前市。30代男性Eさんは、会社都合で帰郷し地元企業に就職。ある日、母親が営む美容室で見かけたのが、幼馴染みのFさんだった。母とFさんの母親はママ友であり、小学校時代から家族ぐるみの付き合いがあった。
「“おばちゃん、よろしく!”って言われて、もう逃げられなかった(笑)」
二人はあくまで「親しき友人」として再会したが、互いに恋愛経験を経ていたことで、すぐに“相性の良さ”を再確認。半年後には自然な形で結婚。「親も友達も最初から知っている人たちだから、特に説明も必要なかった」と笑う。
このような事例は、Piper(1997)が国際結婚における「文化的断絶」に言及した文脈の対極にあり、地縁・家族ネットワークの存在が結婚維持にプラスに働くことを物語っている(Piper, 1997)。
■ エピソード④:宮崎県・再会は“家の片付け”から
宮崎県日向市。60代女性Gさんは、空き家となっていた実家の片付けのために東京から一時帰郷。地元の不動産会社を訪れた際、対応してくれたのが中学時代の同級生Hさんだった。互いに配偶者を亡くし、長年一人暮らし。
「“久しぶり”の一言で、時間が一気に巻き戻った感じでした。」
片付けを手伝ってくれたHさんとの会話が心地よく、その後お茶や散歩を重ね、事実婚のような形で一緒に暮らすように。Gさんは「恋愛とかそういうのではないけど、一緒にいられる人っていいよね」と語る。
このケースは、Tamagawa(2018)が指摘する「異性愛規範から自由な関係性」や、「ライフステージによる親密性の再定義」に該当する(Tamagawa, 2018)。
小結:幼馴染み婚の“現在地”とそのリアリティ
これらの事例から見えてくるのは、幼馴染み婚が「劇的な愛の成就」ではなく、「生活の自然な延長」として成立しているという点である。派手さはないが、圧倒的な“納得感”と“居心地の良さ”が人々を引き寄せている。
共通するのは次のような特徴である:
再会の偶発性と、そこから生まれる必然性
過去の共有資本が現在を支える
親や地域の承認が関係構築をスムーズにする
恋愛経験を経たうえでの成熟した選択
つまり、幼馴染み婚とは、単に「古い関係に戻る」ことではなく、「変化した自分同士がもう一度出会い直す」行為なのだ。
【第4章】ジェンダーと世代交代の視点
―「幼馴染み婚」が映す、恋愛と性役割の再構築
「彼だから自然に暮らせる」「仕事も家事も半々が当たり前になった」──これは、ある幼馴染みと結婚した30代女性の言葉である。このような証言から見えてくるのは、単に“気心の知れた相手”という安心感に留まらず、恋愛や結婚の役割観、ジェンダー意識が世代を超えて大きく変わりつつあるという現実である。
かつて日本の恋愛・結婚は、「男が働き、女が家を守る」という性別役割分業に基づいていた。しかし現代では、女性の社会進出、男性の家事育児参画、性の多様性の容認など、多方面での構造変化が進んでいる。そして、その変化にもっとも柔軟に対応しているのが、“旧友”や“幼馴染み”との関係性なのだ。
■ 1. 恋愛・結婚観の世代間ギャップと「再評価型の親密性」
ジェンダー社会学の観点から見ると、恋愛観の大きな転換点は、1970年代のウーマンリブ運動から始まったとされる。その後、バブル期(1980~90年代)を経て、恋愛=自己実現の手段としての価値が強調されるようになった。しかし2000年代以降、「恋愛疲れ」「婚活消耗」などが問題化され、恋愛や結婚に“ほどよい距離感”と“安定性”を求める若者が増加した。
社会心理学者EE Cookは、こうした傾向を「感情的自己決定権と現実的選好のバランス志向」と捉えており、特に非正規雇用や都市生活のストレスに直面する若年層において、恋愛ではなく“共同生活者”を求める意識が顕著であると報告している(Cook, 2014)。
この文脈において、幼馴染み婚は極めて「効率がよく、納得できる選択肢」となる。互いに“知っている”がゆえに、余計な演出や自己プロモーションが不要であり、現代的な「対等性」「フラットな関係性」の理想に適合している。
■ 2. 性役割の溶解と“親密性の脱制度化”
フェミニズム社会学者Judith Staceyが提唱した「家族の脱制度化(deinstitutionalization of the family)」という概念は、制度や規範に縛られない親密性の在り方を重視するものだ。とりわけ日本においてもこの傾向は強まり、「籍を入れないカップル」「事実婚」「同居のみ」といった多様な家族形態が社会に認知されつつある。
宮崎県で再会した60代の幼馴染みカップルGさんとHさん(第3章参照)は、その象徴的な存在だ。彼らは「結婚」という制度に再度縛られることなく、**老後を共に暮らす“親密な他人”**としての関係性を選んだ。これはStaceyの言う「postmodern family」そのものであり、恋愛関係すらも“自由契約的親密性”として再構築されている例といえる。
また、若年層においても「婚姻届は出さないが共同生活をする」という選択が増えており、法制度の外にある“情緒的・実務的パートナー”としての結びつきが台頭している。
■ 3. 幼馴染み婚における“性差の希薄化”と非競争的関係性
Tamagawa(2018)は、LGBTQ+を含む日本の若者に対するインタビュー研究において、「恋愛は誰とするかより、“安心して自分でいられる関係性”かどうかが重要」とする証言を多く記録している(Tamagawa, 2018)。
幼馴染み婚においても、性別を超えた“安心性”が第一の価値になっている点が特徴的である。とくに10〜20代の世代では、「男らしさ」「女らしさ」という言葉に違和感を覚え、「個として対等であること」による親密さを重視する傾向が強まっている。
たとえば、千葉県で再会した20代カップルは「友達だったときの延長線上に結婚があっただけ」「性別を意識したことがない」と語っており、彼らにとって恋愛や結婚とは、「役割を演じる」ことではなく「等身大の共生」である。
■ 4. 世代間比較:親世代との“家族観の断絶”
昭和の高度経済成長期を生きた親世代は、「結婚=安定」「家を持つ=一人前」といった価値観を共有していた。しかしZ世代やミレニアル世代にとって、安定とは“収入や地位”ではなく、“心身の安らぎ”である。結婚もまた、ゴールではなく選択肢の一つに過ぎず、「結婚しない自由」や「再婚・事実婚」も等価に評価される。
こうした価値観の変化は、育児、家事、仕事、介護といった役割分担の再交渉を生むと同時に、「無理なく続けられる関係」の必要性を強調する。幼馴染み婚が自然に受け入れられる背景には、相互了解と役割柔軟性があらかじめ内包されている関係だからこそ成立する構造がある。
小結:「家族を“つくる”」から「関係を“選ぶ”」時代へ
現代のジェンダー観と世代的恋愛観の交差点において、「幼馴染み婚」は極めて柔軟かつ持続可能な関係モデルを提示している。そこでは、性別も制度も問い直され、自分が自分らしくあれる関係性をどう築くかが問われている。
家父長制や性別役割からの解放を目指したフェミニズムの成果が、ようやく“日常的な愛”の形に落とし込まれはじめた今、幼馴染み婚はその実践例として、未来の親密性のヒントを与えてくれる。
【終章】これからの恋愛と地域社会
―「帰る場所」が恋愛を変える、「結び直す力」が家族を生む
幼馴染み婚。それは、人生をぐるりと一周して再び出会う、円環的な親密性のかたちである。そしてそれは、「愛とは、出会うことより“再会すること”に意味がある」という現代的なメッセージを内包している。
本書でこれまで検討してきたように、恋愛心理学的にも社会学的にも、地元という場所と幼馴染みという存在は、現代の人間関係における“安定”と“信頼”を象徴する要素として浮上している。そこには、感情よりも関係性の「持続可能性」、制度よりも相互理解に重きを置く、新しい恋愛のかたちがある。
この終章では、今後の恋愛観、地域社会の役割、そして結婚や家族の再定義について、未来志向で考察を深めていく。
■ 1. 「誰と」ではなく、「どこで、どう生きるか」の恋愛へ
都市型の恋愛は、選択肢に満ち、常に“他者との比較”を迫る。プロフィール、スペック、条件…。そうした出会いの中で、自分らしさや信頼を保ち続けることは容易ではない。一方、地元という場での再会は、スペックから離れた文脈的親密性を育てる。
CrossとJoo(2023)が指摘するように、日本の恋愛は文化的に“関係性重視”の傾向が強く、共通の空間・記憶・価値観を土台にした親密性が、持続可能な恋愛・結婚につながりやすい(Cross & Joo, 2023)。
これからの恋愛において、「どんな人と出会うか」ではなく、「どんな時間と空間を共に過ごすか」がより大きな意味を持つ時代になる。すなわち、「誰と」という問いは、「どこで、どんな関係を築くか」に置き換えられていく。
■ 2. 地域社会の未来:個人と共同体の“間”としての場
20世紀型の家族像は、都市化と核家族化の流れの中で、孤立と脆弱性を抱えるようになった。共働き家庭の育児困難、高齢者の独居化、子育て世代の孤立…。これらの課題を補完する存在として、近年「地域」が再評価されている。
ChambersとGracia(2021)が論じるように、現代家族はもはや閉じた単位ではなく、**地域や社会資源と柔軟に連携する“開かれた家族”**である(Chambers & Gracia, 2021)。その意味で、地元での結婚=幼馴染み婚は、地域との相互補完関係を最初から内包した結びつきといえる。
たとえば、再会した二人が結婚し、地元のNPO活動や消防団、町内会に自然に関わる事例は各地に見られる。結婚が「二人のこと」だけでなく、「地域の再生」にもつながるという構図が今、確かに育ちつつある。
■ 3. 幼馴染み婚が象徴する、“関係を育む”恋愛モデル
本書で扱った幼馴染み婚の事例には、一つの共通項があった。それは、「愛とは、築かれるもの」であるという静かな信念である。一目惚れでも、運命的出会いでもない。日々の中で、ゆっくりと信頼を育て、やがて共に暮らすようになる。
この関係性のあり方は、フェミニズム社会学者Judith Staceyのいう「ポストモダン家族」の理念にも通じる。それは、制度や性別役割から自由になり、相互選択と関係の再交渉を通じて成立する家族である。
そしてこの思想は、すでに10〜30代の若者たちの意識にも芽生えている。「結婚するかしないか」ではなく、「一緒にいて自然な人と、自然なかたちで共に生きる」——そんな選択が可能な時代が、ようやく実現しつつある。
■ 4. 「再会」から「共生」へ──これからの恋愛の行方
これからの恋愛は、「特別な誰かを探す旅」から、「知っていた誰かと、もう一度出会い直す旅」へと移行していくかもしれない。そこで大切になるのは、“懐かしさ”ではなく、“新たに見える相手の魅力”に気づく視点だ。
過去を知っているからこそ、未来をともに築ける。失敗や挫折を共有してきたからこそ、支え合える。そんな関係が、これからの時代に求められるパートナーシップのひとつの理想形なのではないだろうか。
結びにかえて:「帰郷」から始まる、静かな革命
地元での結婚、幼馴染みとの再会、それをきっかけに始まる新しい家族像。それは社会的制度の変化に伴って現れた、「愛の選び直し」「関係の結び直し」である。
結婚が「他人になる」ための儀式から、「理解されるための再構築」へと変わりつつある今、人々はふたたび「どこに帰るのか」「誰と生きるのか」を静かに問うようになっている。
そしてその答えが、「あの頃から知っている人と、もう一度人生を始めること」だったとしたら──。
それは決してロマンではない。社会の構造が、文化が、人間関係の意味を変えている今、幼馴染み婚は「私たちが本当に求めている愛」の形を、もっとも静かに、しかし確かに体現しているのかもしれない
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